『我が闘争(抄訳)』の解説
ナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーによる『我が闘争』。1923年11月に起こしたミュンヘン一揆に失敗したヒトラーが獄中で執筆をはじめたことで知られており、ナチスがドイツ政権を掌握してからはドイツ国民に広く行き渡った。
本日本語訳は、昭和15(1940)年9月に水野宏一によって編集、研文書院によって発行されたもので、全文を翻訳したものではない抄訳である。
ところどころ、原文訳とは異なる翻訳がされていることから、『我が闘争』を理解してヒトラー自身の思想を正確に窺い知れる性質のものではなく、戦時中の日本がいかなるヒトラー観を持っていたのかを理解する上で、意義を持つ史料であると言えよう。
『我が闘争(抄訳)』の全文
序
この書はヒットラーが有名である如く有名であり、そのことはこの書が、世界の主要な国の国語に、殆ど漏れなく翻訳されており、且つその発行部数が何れも巨大な数字をしめしていることによっても証明されるのである。
ヒットラーはこの書を書き上げたことに就いて「この仕事は同時に我々の運動にも役立つところがあるだろうと思われる。・・・・・これと関連して、私は私自身の発展の跡を辿る機会を得たわけであるが、この書物が理解されるなれば、ユダヤ人の新聞が私に関して作り上げられた不潔な伝説は、必然的に一掃されるであろう」と云って、比較的謙遜した物言いをしているが、書かれていて内容は一字一句ヒットラーでなければ持ち得ない烈々たる闘志に燃えたものばかりである。
しかしそれは只力強い言葉と彼の抱負とが述べられているのみのものではない。彼はこの書の中で、民族国家の行くべき道を示し、明日の世界に対して、峻烈なる警告と、怖ろしい程迫力のある予言をすらもなしているのである。
今日までの世界の情勢は、ヒットラーがこの書に於て予言した通りに動いて来ている。それは丁度ユダヤ人の予言書と云われる「シオン議定書」に於て、ユダヤ王国の建設さるべき将来に就て彼等の予言したことが薄気味悪い程適中していることと対照されて、全然対蹠的なこの二つの闘争者に無限の興味を覚えさせるものでもある。
この書を読むことに依って、我々は今次世界大戦勃発の必然性を十分に知ることも出来れば、ドイツ並にその敵国の運命をも予知することが出来る。ただ惜しむべきは我が国情の相違その他から、「我が闘争」の全篇を採録するの自由を持たぬことである。
しかし本書を通読するだけでも、我々はヒットラー並に世界への認識を、何倍か加える役には立つであろうと信じている。
とまれこの書は、茲十数年来の欧州の動きを鋭どくも描き出した目録書であると共に、若しドイツが勝利を得るなれば、怖らく今後数十年の欧州は、この書の筋書通りに動くであろう大予言書でもある。
この中から現在の日本人として、何を吸収すべきであるかは、読者自らが身を以てする体得にお任せしよう。
紀元二千六百年七月
編者識
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