我が闘争(抄訳)
『我が闘争(抄訳)』の全文堕落した犯人奴!
母が亡くなった時泣いて以後、始めて私は涙をながした。何と云う意地悪い運命であることか。余りに残酷な運命の裁きではあるまいか。少年時代からの数々の不幸と不遇、或はこれで生涯盲目になるかも知れぬ毒ガスのお見舞、最後にこの言語同断な祖国の瓦解!そんなことが走馬灯の如く心の中を駆け廻って、私は私のこの限りなき不幸を泣いた。しかしその中私の良心は「卑怯者め、お前の不幸など物の数ではないぞ。何千万人もの人間がお前より百倍も不幸である世の中だ。それでも尚お前は泣こうとするのか」と激しい鞭を加えて来た。
けれども、この一時が私を根底から打ちのめしたことは、修正のしようのない事実であった。祖国は遂に最大の災難に遭った。凡てのドイツ人の堪えに堪え、忍びに忍んだ飢餓も渇きも空に帰した。あたら戦場の露と消えた二百万の英霊も徒らなる骨と化した。
勇敢であった兵士たちは祖国の敗北のために悪戦と苦闘とを重ねたのであったか。フランダースの塹壕で、十七年の生涯を終った少年勇士も、こんな結果のために一生を棒に振ったのであるか。一切の苦闘はこの祖国を売った悪漢共に捧げる努力であったろうか。祖国ドイツの将来はどうなるのか。こんな悲惨な結果を見なければならなかった程、今迄のドイツは無価値なものであったのであろうか、我々はドイツの、而して我々の歴史に対して何等の責任をも負わなくていいのだろうか。こんな滅茶苦茶な運命を、どうして奪い未来へこのまま引渡すことが出来よう。
堕落した犯人奴等!私は拳を握った。
恐怖と混乱との幾日かは続いた。その間に私が知ったのは、ドイツがすべてを失ったと云う事実だけであった。ただ嘘付きの無頼漢共と、お話にならぬ白痴共だけが敵の慈悲を望むことが出来た。日毎夜毎の出来事はただもうこれらの堕落した犯人共に、火のような憎悪の念を燃え上らせることのみであった。
坩堝の煮えたぎるような日は続いた。その間に、私は自分の之からの運命をはっきり自覚出来たのである、私は自分個人の将来について兎や角案じていたことを嘲うようになった。この混乱期に私が聞いたり目撃したりしたことは、つねに私が憂慮していたことではあったが、よもやそれが実現されるであろうとは思いもしなかったことだらけであった。
気の毒なのはカイゼル・ウィルヘルム二世である。カイゼルは巧みにユダヤ人を利用するつもりでマルクス主義者等に手を差し伸べた。マルクス主義者共は喜んでその手を握り、如何にもカイゼルの見方であるかのように粧いながら、もう一方の手に匕首を擬して、カイゼルの首を狙っていたのである。
一切は明白になった。ユダヤ人一派のこの許すべからざる陰謀に対しては、最早極端な無慈悲の手段を以て臨むより外に方法はない。若し少しでも彼等に隙を見せたら、必ず手に噛みついて来る輩である。
さればよし、私は政治家となって私の闘争を展開しよう。悲壮な決心はここに於て実を結んだのであった。