我が闘争(抄訳)
『我が闘争(抄訳)』の全文二種の敵を与えず
今日迄のドイツ人運動の失敗に原因には、更に今一つの重要な点を見逃してはならない。それは、集中された目標への徹底した研究が足りなかったことである。若しドイツ民衆の権利を擁護すると云う一つの目標に向って、徹底的な研究を行い得たなれば、この政治運動も指導権も確立して、希望通りにドイツの国民と民族を救ったに違いない、然し事実は之の反対で、目的なり力なりが餘に多方面に分散せられ、その結果力は弱化して、遂に政治運動たるの威力を喪失するに至ったのである。
率いて行こうとする大衆に向っては、決して二つの敵を与えてはならぬ。常にただ一つの敵を最大唯一の目標として与えなければならぬ。万人の憎悪がこの只一つの敵に向って集中されるように仕向けなければならぬ。実際には二つ以上の敵があったにしても、優れた指導者は之等の敵を同一種類のものとして、大衆に思はせるだけの才能を持つて居るべき筈である。
斯うと一所を狙って打下す鉄槌は、矢鱈に叩いて廻ることよりも遥かに確実、且つ徹底的な効果を挙げるものである。
若し大衆に幾種類もの敵があることを知らせたならば、それは徒らに彼等を驚かせるばかりでなく敵が多いといふことのために自己の正しさを疑わせるような重大な結果を招き勝である。敵が正しくて、自分達が間違っているのではないか、との迷いも生じて来る。斯うなっては如何に指導者ばかりが頑張っても到底勝算はない。この反対の大衆がただ一つの敵と戦っていることを信ずるなれば、その信念は彼等の立場を一層強化し、敵愾心は一層燃え上り、怒涛のごとき勢いを以て敵を征服することに邁進することになるものなのだ。