我が闘争(抄訳)
『我が闘争(抄訳)』の全文冷酷な英国
ドイツの指導者が、平和的な世界貿易競争を、その人口過剰問題の解決策として取上げたことは、誠に狂気じみた指導政策であった。
四つの海にその領土を持ち、経済的な世界制覇を念願としているイギリスが、何としてこのドイツの商業政策をそのまま見過ごすわけがあろう。イギリスは全力をあげて、ドイツのこの前進を阻害するに違いなかった。
由来ドイツ人は、イギリスを敢て臆病者の国家であると思い込ませるのに躍起となっていたような傾向が見える。学校や新聞や漫画などは、機会ある毎にイギリス人は、商人としては仲々利巧ではあるが、戦争に當っては、信じられない程の臆病者であると、国民一般に思い込ませようとしていた。
しかし実際はイギリス人は、その経済征服のためには、如何なる残忍な行為をも辞さない国民である。この国民は、その巧みな政治的勢力から経済上の実力を吸収すると共に、あらゆる経済的な進出を政治的勢力に変化さし得る大きな力を持っている。イギリス人がその経済勢力を擁護するのに、血を流すことを怖れて尻込みするであろうなどと思ったことは、実に飛んでもない大誤算であった。前世界大戦に於て、我々が始めて英国軍と対戦した日のことを思い出す。英国人を臆病者と思い込んでいた戦友達の顔には、その猛烈な攻撃力に始めて出合って、事の意外に名状の出来ぬ驚きが現れていた。私はこの戦火の中で、始めて「宣伝の力」というものを生々しく体験したのであった。